「ジェイド。レプリカって死体は残らないんだろ?」

「はい。第七音素が乖離してそのままプラネットストームに還りますから」


 死体すら残せない俺はジェイドに何を残せるだろう。


「じゃあさ、生きてるうちに切り離したものはどうなるんだ?」

「あなたがアッシュに言われるまでレプリカだと判明しなかったことから見ても分かりそうなものでしょう」

「あ・そっか。消えちまうんなら、髪切った時とか気付かれないはずないもんな」



 レプリカだと知らずに生きてきた7年。血や死に塗れることなく、鳥かごに守られて生きてきた日々。

 懐かしいとは思っても帰りたいとは思わない。骨すら残さず消えると分かった今でも、あのまま何も知らないままで生きていたいとは思えない。

 だって、でなきゃ逢えなかった。でなきゃ愛せなかった。

 たくさんのものを喪って、それでもたくさんのものを彼に与えられていた。
 
俺の命すらジェイドが与えてくれたものだった。


 でも、俺はジェイドに何を与えられただろう。与えられて、救われて、俺はジェイドに何かしてあげられた?

 何か残せないだろうか。ジェイドが俺を忘れないもの。


 目の端に朱色がかすめる。これはどうだろう。赤い髪は珍しいらしい。俺が俺だと示す、アッシュの緋色とは違う淡い朱。

 部屋にあったナイフを一房掴んだ髪に当てる。力を入れると頭皮が引っ張られる痛みと共に切り離されて少し散らばった。


「ルーク?いきなりどうしたんですか」

「ジェイド。これ、受け取ってくれないか」

「あなたの髪を…ですか?」

「いつかさ、俺の代わりに墓にいれてくれよ。墓、作ってくれるんだろ?」


「嘘かもしれませんよー?私は嘘つきですからねぇ」

「ジェイドは作ってくれるよ。優しいから」


「………はぁ。まったく、こんな風に切ってしまって。ガイが泣きますよ?」

「はは!それは考えてなかった!」



(ジェイドの優しさを利用して、俺は今日も俺の欠片を押し付ける)




骨の欠片ひとつ残さず